コラム「風」平成20年7月

思いやりと実践

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 雨上がりの風景。目に映(うつ)る緑は実に清々(すがすが)しいものです。物理的には、雨が空気中の塵を洗い流してくれるためと言われています。これと同様、心洗われる思いをした後の気持ちも実に清々しいもので、先日、北秋田市でそんな経験をしてきました。

 場所は全国植樹際の会場。天皇、皇后両陛下のご臨席のもと、粛々(しゅくしゅく)と進められた式典。メインイベントの両陛下によるお手植えが始まってから、「おやっ」と思った後、じわじわと感動が湧きあがり、そして実に幸せで爽やかな気持ちになりました。

 お手植えは、両陛下が鍬(くわ)をお持ちになり、苗木に土を寄せるものでしたが、その補助は緑の少年団が務めておりました。両陛下の鍬作業に合わせ、緑の少年団が素手で周辺の土を寄せておりましたが、その途中、皇后陛下が鍬を動かす手を休め、腰をかがめて素手で土寄せを行いました。「おやっ」と思ったのはここです。何故、皇后陛下は鍬を休め、素手で土寄せを行ったのか。僭越(せんえつ)ながら、そのお心を忖度(そんたく)してみました。浮かんでくるのは、緑の少年団団員への思いやりです。それを皇后陛下は実践されたのだと思います。そう考えたら、ふいに感動が湧き上がってきました。私にとって心を洗われた瞬間でした。

 最近、経済的な閉塞感が底流にあってか、どうも社会全般に思いやりが足りないように思います。もちろん、価値観が多様化している現代ですので、その判断は単純にはできない訳ですが、皇后陛下の所作に心洗われた私としては、改めて思いやりと実践の大切さを実感しました。更に植樹祭ということもあって、自然環境への思いやりと実践も人間関係と同様、大切にしなければならない想いを一層強くした次第です。

 現在、町で取り組んでいる水環境保全。美郷が美郷として存続していくための根幹です。その根幹は誰かが守ってくれるものではなく、住民自らが守っていかなければなりません。そのためには、第一に水への思いやりを持つこと。第二にそれぞれが考え、できることから実践すること。そして第三にその活動を連携させていくことではないかと思います。水の美味しさをより実感するこれからの時期、是非皆さんで共通認識を持ちたいものです。

(広報「美郷」平成20年7月号より)

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