コラム「風」平成27年10月

思慮の秋 

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 昨年暮れの話です。六郷高校の校長先生より、生徒に向けて扁額を作成したい由(よし)で揮毫を依頼されました。まったく字に自信はありませんので迷いましたが、結果的にお受けしました。美郷町合併十周年記念で美郷大使の方々に揮毫を無理にお願いした立場上、逆の立場になりお断りするのは、あまりに都合良いと思ったからです。

 選定した言葉は「博学篤志」。大切な高校生時代に、広く(博く)学んで、熱心に(篤く)志してもらいたいと思ったからです。出典は「論語」です。偉人の言葉ですので言葉には力がありますが、書は随分と練習したものの、まったく自信なく申し訳ない次第です。

 さてその論語、多くの故事成語の出典となっていますので、それとは知らず、多くの方が論語の言葉を耳にしているものと思います。有名な「温故知新」という言葉もその一つです。中学生以上であれば解説が不要なくらい、皆さんご存じの言葉です。

 十月一日、その「温故知新」を核心に据えた施設がオープンします。旧千畑南小学校校舎を活用して整備した、美郷町歴史民俗資料館です。合併前3カ所にあった歴史民俗資料を一堂に集め、広く美郷の来し方を確認できる施設です。特にわら細工は貴重な作品も展示しています。また、元東京大学総長 佐々木毅先生の記念室も併設し、その意味では複数の意義を有する珍しい複合施設です。

 こうした施設を整備した目的は申すまでもありません。美郷町の未来を、古(いにしえ)からの時間軸を意識して創っていきたいからです。美郷町は始点から常に前を向いて歩いてきましたが、その歩みも一定の時間(十年)を刻み、次の目標に向かっていく段階に来ています。そのためにも、温故知新の意識と思慮は大切に思うところです。

 みなさんにはぜひ訪れていただき、美郷地域の来し方、とりわけ先人の努力に想いを馳せていただきたいと思います。そこから湧き上がる想いこそ、未来に期待し努力する姿の輪郭だろうと思います。

 食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、いろいろな側面を持つ秋ですが、今年はみなさんで「思慮の秋」にしてみませんか?

(広報「美郷」平成27年10月号より)

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