コラム「風」令和2年9月

情報と冷静さ

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 先月、門田隆将氏の「死の淵を見た男」をようやく読みました。3月上旬より公開されている「フクシマフィフティ」という映画の原作で、私は映画上映と相まって2月頃から意識していた本でした(手にしたのが半年後ですから、「ようやく」ですね)。映画監督は以前、町公民館でご講演いただいた秋田市出身の若松節朗監督です。

 内容は、東日本大震災時の福島第一原発事故がテーマで、いかに最悪の事態を回避したかが描かれています。読んで泣きました。関係者の取材に基づくノンフィクションで、耳にし目にした情報がごく一部でしかなく、事実はもっと深くて広いという当然を改めて認識する本でした。そして、物事は自分の意識半径の情報だけでなく、自ら事実に近づく努力をした上で、判断なり批評なりに至る冷静さを持たなければならないことを再確認させる本でもありました。

 この本を読み終わり、当時の様々なことを思い出し、福島第一原発事故の影響で日本は・・・と思っていた自分が、少し情けなくなりました。とは言っても、原発事故を許容する気持ちにはなりませんが。しかし、命を賭して最悪の事態を回避した職員の奮闘を当時知っていれば、よくぞ最悪を回避してくれたとの思いも持っただろうと思います。つまりは、一部の情報しか知らない人間は、安易に決めつけや誹謗中傷するべきではない、ということです。

 そして、事故で避難した方々に謂(いわ)れのない誹謗中傷があったことも思い出しました。相手の立場に立つ優しさを持たず、まったく自己中心のひどい話でした。最近では、民放テレビの番組出演者に対するSNSでの誹謗中傷もありましたが、これも同質ではないかと思います。内実を知らずに決めつけ、匿名で誹謗中傷ですからね。

 今、社会の一番の関心事は新型コロナウイルスです。意図せず感染した方に、既に勝手な誹謗中傷が横行しているようです。誹謗中傷している方は、逆の立場になればそれを受け止める方だろうとは思いますが、ここは相手の立場に立つ優しさとともに、一部の情報で勝手に決めつけない冷静さを大切にしていきたいものです。

(広報美郷 令和2年9月号より)

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