コラム「風」令和4年8月
記憶と記録ときっかけと
秋田県美郷町長 松 田 知 己
時差の関係で、伝わってきた日にちは翌日となる12月9日でした。‘80年12月8日、ジョンレノンが凶弾に倒れた報です。高校2年生の私が感じた衝撃は今でも覚えています。「嘘だろ、なんで」。後に身勝手で不可解な理由の凶行だったことが分かりました。
先月、安倍元総理が凶弾に倒れた事件ももちろん、社会に大きな衝撃を与えました。民主主義の核心にある選挙期間中、しかも演説中の銃撃。護衛が付いていたにも関わらず阻止できなかった蛮行。根拠が曖昧な短絡的動機による政治家に対する凶行。どこを取っても、私は「衝撃」以外に言葉が見つかりません。おそらく多くの日本国民の記憶に長く刻まれる凶悪事件です。お亡くなりになった安倍元総理のご冥福を心よりお祈りいたします。
さて、こうした衝撃的事件は、これまでも残念ながら多くありました。しかし、全てを記憶している方はいないと思います。それぞれの価値観に応じ、記憶に留めるものと忘却するものを知らず取捨選択しているからで、それが普通だろうと思います。まして事件性のない社会生活に関する事柄では、記憶にさらに大きな差異が生じているはずです。一方、個人というより社会全体の成熟化には、その差異を是正しつつ事柄を再認識できる環境、つまり学べる環境はとても大切です。そこに記録の意義があるわけですが、客観性の問題はあるものの、今後も記録する意識、大切にしたいものです。
そうした記録について、本町では合併前に各町村史として一定の記録が残っています。現在は、美郷町文化財保護協会や六郷史談会などが歴史研究を重ね、会報等で記録を残し続けています。ありがたい活動です。そして先般、新たな展開も生まれました。元本堂地区の「藤森村郷土誌研究会」です。これまで地道に活動を重ね、『元本堂4千年の歴史』という本をまとめました。素晴らしい取り組みです。記憶を記録にし、既存の記録も整理し、地域の今後を考えるきっかけを作ってくれたものと認識しております。
地域における諸活動の積み重ねは、知らず地域の気風を醸成します。そしてそれは個人の判断基準や行動規範にも影響を与えます。良き気風の醸成に繋がる活動、今後も期待したいところです。
(広報美郷 令和4年8月号より)